第74号(93.11.10)


酒、ちょっといい話

 今年は異常な寒さと、雨が多かったためか、山や庭の木々も燃えるような赤や黄色に彩られることなく、茶色に装いをかえてしまいました。

 稲の刈り取りの大幅な遅れと不作のために、親戚の米屋の倉庫には例年の三分の一しか米が入っていないそうです。
 ところで、この大凶作の年、酒好きの読者の皆様には来年の酒の出来具合が大変気になることと思いますので、今回の富田通信はそのお話も入れて、「酒、ちょっといい話」と参りましょう。

不作の年は美酒になる

 富田通信を書き終えてホッと一息の先月の12日の夕方、日本吟醸酒協会の前会長の篠田次郎さんから、相変わらずのお元気そうなお声で電話がありました。その折に伺ったお話が大変興味深い内容でしたので皆様にご紹介いたしましょう。

 篠田さんの話によると「豊作の年に腐造(酒が仕込み中、或いは仕込み後に腐る事)あり、凶作に腐造なし」なのだそうです。


 大正三年は大豊作の年でして、その年の米で仕込んだ大正四年は全国的に大腐造の嵐が酒屋を襲いました。(詳しくは、篠田次郎著『吟醸酒誕生』第七章参照の事)・・・大豊作の年に大腐造が発生したわけです。

 なぜ、このような事が起きるのでしょうか?
 そのわけは、豊作の年の米は硬いことにあるそうです。豊作の年の米は硬いために、酒を造る時に米が溶けにくく、醗酵のバランスがくずれて、酒が腐りやすくなるのだそうです。(もっとも、酒造技術の発達した現在は、酒の腐造という話はあまり聞かなくなりましたが)

 反対に、不作の年は、

(1)酒を造る杜氏の大半が農家出身であるために、不作の年は特に米を大事にし、ていねいに酒を造る。
(2)不作の年は米が軟らかいために、酒の醗酵が早まりやすくなるが、それを抑えるために低温で酒を仕込む。という理由で、非常にいい酒ができやすいのだそうです。
 酒を愛する読者の皆さん、来年の酒は、量の面ではちょっと気掛かりですが、質の面では非常に期待できそうですヨ。
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吟醸酒の定義

 吟醸酒の定義といえば、「清酒の製法品質表示基準」なるものの中で、「吟醸酒は純米酒または本醸造酒であって、かつ精米歩合が60%以下で、吟味して製造した清酒であって、できた酒は固有の香味と色沢が良好なものとする」とされています。

 しかし、上の説明ではあまりにも機械的で吟醸酒が旨いのか不味いのかはっきりしません。

 吟醸酒の産みの親ともいえる花岡正庸氏(昭和28年没)が昭和27年に書いた論文の中に吟醸酒について語った素晴らしい文章がありますのでご紹介いたします。

 「吟醸とは何ぞや、という問題であるが、一口にいえば、芳香醇味である酒のことである。別の言葉でいえば、吟醸香が強く高くあり、吟醸味が豊かに含まれている。これを飲めば爽やかで旨く、飲めば飲むほど心をそそられ、いやが上にも飲みたくなって、ほがらかに酔うものをいうのである。原料の粋をつくし技術の最高をもってして、はじめてできる最高級の醇良酒である」

 さすがに、吟醸の神様といわれる人の言葉ですね。


酒に五味あり

 日本酒は辛口に限る、いや甘口が好きだ、などとよく酒飲みの間で話題になります。 昔からお酒には、甘・酸・辛・苦・渋の五味があり、この五味がほどよく調和しているものがよいお酒だといわれています。 ちなみに、坂口謹一郎博士もその著「日本の酒」の中で、さわ りなく水の如くに飲めるのが良い酒だと述べています。

 人にも、そねみ、ねたみ、うらやみ、やっかみ、ひがみなどの五みがあるといわれますが、やはり、酒は、それらから離れた中にあって、大自然との一体感を味わいながら、吟醸味あふれるやつを、しみじみやるのが一番ですよね。

 乾杯!


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…… 商 品 案 内 ……

初孫・吟醸初しぼり『雪そうび』

 初孫さんの吟醸新酒『雪そうび』。「そうび」とは、植物のバラのことだそ うです。

 新鮮かつ爽やかな風味とフルーティな香り。しぼりたての旬の醍醐味です。

内容:
 容器形態/びん詰720ml 2本入セット
 外装箱/発泡スチロール製セット箱、化粧蓋付
成分/アルコール度:16.5 日本酒度:+4 
   酸 度:1.3
   原料米:美山錦 精米歩合:55%
入荷予定日:11月下旬 季節限定商品
            ¥3,000

出羽桜『吟醸・一耕セット』

 このセットのために詰めた大吟醸と、風味が口中で豊かに広がる純米酒「一 耕」のセットです。

 吟醸酒は冷やして、一耕は冷や又はぬる燗でとお酒の楽しみが広がります。

入荷予定:11月上旬 720ml ¥3,000

上喜元『純米吟醸』

 全国新酒鑑評会金賞受賞の常連組、上喜元(じょうきげん・酒田市)さんの 超限定酒『純米吟醸』が新発売されます。

 ふくらみがあって、まろやかで、非常に上品な甘さを感じさせるその味わい は、まさに甘露そのものです。ぜひ一度ご賞味ください。
 なお、生産本数がごくわずかなため、品切れの際はご容赦ください。

内容:
 アルコール度:17.1 日本酒度:+2 酸度:1.2

 原料米:山田錦 精米歩合:50%

 入荷予定日/11月下旬 予約受付中
       1.8L  ¥5,000





…… 編 集 後 記 ……
 先日、何年ぶりかで風邪で熱を出しました。常日頃、一日中寝てみたいと思っていましたので、これ幸いと布団にしがみついていましたが、腰は痛むわ、節々は苦しいわで、散々でした。やはり健康が一番と悟ったしだい。

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