第72号(93.09.10)


重陽の節句

 今日は雨・・・、冷たい雨が降りしきっています。今年30度を越えたのは新庄祭の8月24・25日の二日だけ。田圃を見渡せば、実が入らずつっ立ったままの痛々しい稲穂が重苦しく胸を締めつけます。
 さて、陰暦の九月九日は重陽(ちょうよう)の節句で、菊の花を杯に浮かべ長寿を祝う日です。今年の陰暦の九月九日は10月23日ですが敬老の日もあることですし、今回の富田通信は重陽の節句について書いてみたいと思います。

重陽の節句

 重陽とは陽が重なるということですが、陽とは易などでもいうように奇数のことで、その反対の偶数が陰とされています。その陽数の内、一番大きい数字すなわち極陽に当たる「九」が重なる日ですから特に重陽といい、また重九ともいいます。

 そのいわれは、中国は後漢の頃(西暦25〜221)汝南の桓景というものに、九月九日費長房が忠告していうのに、「今日はお前の家中に災厄があるから、急いで家を出て高いところに登りなさい。そのとき袋にグミを入れて持って行き、菊花の酒を飲めば、その禍からのがれることができます」とのこと。そこで桓景がその通りにして、その晩家へ帰ってみたところ、家畜類が全部死んでいました。それは主人らの禍の身代わりになったのだということです。


 それ以来、この日に悪気をさけ初寒を防ぐにあらたかといわれるグミを飾って、高い所に登り、長生きの効果があるという菊花の酒を飲んで、長寿を願い災難を払うまじないをすることになったとのことです。

 中国のこの風習が、やがて日本にも伝わってきて、天武天皇(673〜686)のころから催されるようになりました。『西宮記』には、天皇出御のもとに紫宸殿で行われ、御帳の左右にグミの袋をかけ、御前に菊をさした花瓶をおき、王卿以下が詩をつくり、終わってから氷魚(ひお)や菊の花を酒に浮かせた菊酒を賜ったとあります。

 ところで、私の敬愛する人に中国の陶淵明(西暦365〜427)がおります。彼は酒を愛し、自分の内面を深く見つめ、自分に正直に生き抜いた人ですが(淵明について詳しいことを知りたい方には、牟田哲二著『陶淵明伝』勁草書房を推薦いたします。)、その彼が九月九日の重陽の節句に作った詩がありますのでご紹介します。  

   乙酉歳九月九日

  
淋しく秋の日は暮れやすく
  しとどに風露が下りた
  蔓草も亦伸びはびこらず
  庭木は空しく自然のうちにしぼむ

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  秋の清気は余塵をとどめず澄みきり
  限りなく空は高い
  力なく悲しげに鳴いていた蝉の声はたえ
  雁の群が雲間に鳴くころとなった
  万物は相ついで変易し

  人生は長い苦労つづきではないか
  しかも昔から人間は皆死んでしもうのである
  これを思えば胸の中が熱くなる
  なにを以てこの我が情をみたそう
  濁酒でも独りして酌もう
  自分の死後は関知するところでない
  せめて今朝を永遠のものとしよう


 死を正面から凝視し、のがれられない人間の生き方で、濁酒の中にこそ悠久は在り、人間のおかれている現在、それに存在のすべてをかけようと詠んだ詩です。

 ・・・私には淵明ほどの強さはありませんが、せめて吟醸酒に菊の花と蔵人たちの熱い思いを浮かべて飲むことにしましょう。では皆さん、乾杯!


…… 編集後記 ……

○今、私は複式簿記なるものの講習を受けております。初めは、複式ったって帳簿に変わりはないだろう、日本酒だって並行複醗酵だイ!? と高をくくっていたのですが、いざ始まってみると借方がどうの、貸方がどうの、仕分けがどうのとチンプンカンプンな話ばかり。新庄祭の山車製作(製作時間半分、その後の酒飲み時間半分)の1ヵ月半の間にすっかりアルコール漬けになってしまった脳にはかなりハード。これでは、複式簿記をマスターする前に頭が分裂して複式簿記になってしまいそう・・・。


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『銘酒特撰頒布会』のお知らせ


 『銘酒特撰頒布会』は、毎年全国各地の銘酒を厳選して皆様のお手元にお届けしています。今回のテーマは「吟醸酒」です。この頒布会のために限定醸造した、それぞれ個性豊かに磨きぬかれた吟醸酒を是非、ご賞味下さい。

頒布会要領

○頒布期間 平成5年10月〜平成6年3月まで6回
○会 費  毎月4,600円×6回(毎月1.8L2本)○締め切り 平成5年9月30日
○ご入会は締め切り日まで、当店にお申し込みください。
○代金は毎月4,600円で商品をお受け取りの際にお支払い下さい。
 なお、商品発送の場合は運賃が加算されますのでご了承下さい。

頒布酒の紹介

1回(平成5年10月)

綾菊(香川県)
酒度:+6 酸度:1.4  米:オオセト

環日本海(島根県)
酒度:+2 酸度:1.4  米:五百万石

2回(平成5年11月)

吉乃川(新潟県)
酒度:+7 酸度:1.3  米:雪の精・五百万石

鯉川(山形県)
酒度:+6 酸度:1.4  
 米:美山錦・ササニシキ

3回(平成5年12月)

あさ開(岩手県)
酒度:+4 酸度:1.2 米:ササニシキ・美山錦
萬歳楽(石川県)
酒度:+3.5 酸度:1.5 米:北陸12号・山田錦

4回(平成6年1月)

醉心(広島県)
酒度:+2 酸度:1.6  米:山田錦
招徳(京都府)
酒度:+3 酸度:1.4  米:五百万石 他

5回(平成6年2月)

冨の寿(福岡県)
酒度:±0 酸度:1.5  
 米:山田錦・レイホウ
澤乃井(東京都)
酒度:−5 酸度:1.5  米:美山錦

6回(平成6年3月)

末廣(福島県)
酒度:+3 酸度:1.4
 米:会津産有機米五百万石

七賢(山梨県)
酒度:+3 酸度:1.5 米:美山錦

※お酒についての詳しい説明は当店にパンフレットがございますので、それをご覧になってください。

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