第67号(93.04.10)


日本酒入門

 4月も八日を数えるというのに、朝起きると一面の雪景色。「冬が暖かかった分、春は寒い」なんて言葉を、訳もなく信じてしまいそうになる今日この頃の陽気です。

 ところで4月といえば、学校、会社など新しく始まる月。富田通信も襟を正して「日本酒入門」と題して、日本酒の歴史を少しかじってみましょう。


天甜酒(あまのたむざけ)

 日本で最初に米で酒を造ったのは、コノハナサクヤ姫ということになっています。この方は『日本書紀』神代の巻に出ていますが、姫は「狭名田(さなだ)の田の稲をもって、天甜酒を醸(か)みて嘗(にいなえ)す」とあります。

それが記録上、米を原料とした酒の現れた最初のものと思われるからです。

 天甜酒の「天」は天上界とか神の世界を意味し、「甜酒」はうまい酒を意味するところから、天甜酒とは、天の美酒というほどの意味となります。


 ところで一説に天甜酒は、米を口で噛んで酒とした「口かみ酒」とする説があります。美しい乙女が米を噛み、器に吐き出して、口中のジアスターゼを利用して酒を造る・・・、確かに話としては面白いのですが、残念ながらこの説は間違いです。

 記紀、風土記、万葉集などでは、酒を造ることをカム・カミ(ス)といい、「醸」の字を当てています。天甜酒を「口かみ酒」とした説は、このカム・カミを「噛」、つまり食べ物を噛むと解し、唾液利用の酒づくりに結びつけたものですが、カム・カミ(ス)の語源は、本当はカビ(黴)に由来するもので、米麹と深いかかわりのあるものなのです。

 コノハナサクヤ姫が新嘗の神祭のために造った天甜酒は、明らかに米を原料とし、しかも、カムタチ(米麹)利用の酒づくり方式による醸造酒という点で、まさに日本酒の原点なのであります。

 その酒は、おそらくアルコール分の低い、今日の甘酒よりは酸味の多い、濁酒様の酒であったと思われます。

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諸白酒(もろはくしゅ)

 前述のように米と米麹を原料とした日本酒の原点ともいえる酒は弥生時代に生まれましが、その酒は現在の日本酒とはかなり違ったものでした。

 現在の酒の原形ができたのは、ずっと時代が下がって、室町時代になります。その酒は、「諸白」、「諸白酒」と呼ばれる酒です。

 諸白酒は、『多聞院日記』の中に初めて出てくる酒で奈良で生まれました。

 では、なぜ諸白酒が現在の酒の原形と言われるのか、諸白酒の特色を書いてみましょう。

酘方式による仕込法

 酘(とう)方式とは、具体的には熟成酒母、いわば醗酵中の酒の中へ、米麹、蒸米、水など原料を投入して、ふたたび醗酵させる酒づくりの手法をいいます。諸白酒は、この酘方式によって造られました。現在の酒も、添・仲・留の三段仕込みの酘方式です。
 それまでの酒の仕込法はシオリ方式といって、酒を仕込み、出来た酒をしぼって、その酒を仕込水のかわりに使って更に酒を仕込んでゆくという方法が主でした。

酒母の育成

 諸白つくりは、現在の酒と同様に酒母を育成しました。したがって、酒母の育成の無い濁酒つくりとは、明確に区別されるようになりました。


麹米、掛米とも白米使用

 諸白の特色は、麹米、掛米ともに白米を使用したことで、実際、このことが諸白の語源となりました。

 それまでの酒は、掛米には白米を使ってしましたが、麹米は玄米を使っていました。ちなみにこの酒のことを片白(かたはく)といいます。

上槽(じょうそう)

 醗酵の終わったもろみを酒袋に入れて、酒と粕とに分離する作業を上槽といいます。この作業の有無で、諸白酒と濁酒系の酒とは明らかに一線を画することができます。

火入れ、殺菌

 今日清酒の火入れの目的は、生酒の殺菌、残存酵素の破壊、風味の調熟の三つとされていますが、諸白の場合も同様の目的で火入れがおこなわれました。諸白の火入れは、『多聞院日記』の1568年6月、夏「酒ヲニサセ」とあるのが初見ですが、これは、西欧の細菌学者、パスツールが低温殺菌(火入れ)を発見する、実に300年も前のことです。

 以上のように、室町時代の終わりには現在の酒の原形が出来ていました。

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……… 商 品 紹 介 ………

ニュータイプ純米吟醸酒
『山形清々』(やまがたせいせい)のご案内

 昨年発売された、ニュータイプ純米吟醸酒『山形清々』は大好評で、あっという間に売り切れました。

 『山形清々』は、鑑評会タイプの吟醸酒とは、まったく違う純米吟醸酒です。山形県酒造組合連合会が山形県工業技術センターの指導のもと、山形県産の酒造好適米「美山錦」と、バイオ技術を駆使た新酵母を使い、変則二段仕込みで醸したお酒です。

 吟醸香が高く(一般の吟醸酒の約2倍)、少し甘酸っぱい。のど越しが爽やかで飲み飽きしません。

 今回は、新庄酒造(最上川)と出羽桜酒造のお酒を紹介いたします。

 ギリッと冷やしてお召し上がりください。




新庄酒造『ほほえみ』
  度数12〜13° 酒度−12 酸度1.7
      720ml ¥1,500
      300ml ¥700

出羽桜酒造『一枝春』(いっししゅん)
  一枝春(本 生)
   度数15.8° 酒度−9 酸度2.2
      720ml  ¥2,000
  一枝春(火入れ)
   度数12.8° 酒度−7 酸度1.8
      720ml  ¥1,700
※出羽桜『一枝春』の入荷は4月下旬の予定です。




…… 編集後記 ……


○先日、出羽桜酒造さんに遊びにいって、専務の益美さんから、吟醸酒の酒母を日数ごとに味見させていただきました。甘酸っぱい酒母が日を経るごとに甘さが減り、アルコール分が出てきて、それと共にリンゴやバナナ、メロンの香りまでが立ち込めてくる・・・。大変おいしゅうございました。

○4月から長男が小学校一年生。「哲郎、先生の名前は?」「・・・忘れた」……… なんとも頼り無い一年生ですが、姉と一緒に元気に学校に通っております。

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