第63号(92.12.10)


雪見酒

 11月25日の昼から降り出して、翌朝までに10センチほど積もった初雪も、今はありません。降ったり、消えたりを繰り返しながら、今月下旬には根雪になるのでしょう。

 屋根や野にうっすらと積もった雪・・・。1月、2月の屋根から下ろした雪で窓の外が雪の壁になる前の、雪がまだ綺麗だと思えるこの季節に雪見酒と洒落こみませんか?

 トマトやキュウリやイチゴが一年中店頭に並び、すっかり旬という感覚がうすれてしまった今日この頃ですが、今まさに旬の、音もなく降り積もる雪を肴に酒を呑むのも一興かと思います。

 そこで、今回の富田通信は「雪見酒」について、『酒おもしろ語典』より抜粋して書いてみました。


雪見酒

 酒と雪月花のうち、花見酒は今なお(いや、ますます)盛んですが、雪見酒となると、この頃ではよほどの粋人でなければやっておられないようです。

しかし昔は………

 この雪見ということは平安朝時代にすでにあったようで、紫式部(973〜1014?)に香炉峰の雪の逸話があり、また同じ頃の白河院の雪見というのが『十訓抄』に出ております。


白河院は雪見がお好きで、ある時など夜半から降り出した雪が、朝もなお降り続いておりましたので、院は直ちに牛車を命じ「雪は北風の激しく吹く野山の景色に風情あり」とて、小野の方へと出かけられる道すがら、皇太后宮をお訪ねすると、寝殿の南面に紅の打出しを三間に出し、其処を衣美しき十七八の女の童が、折敷に金盃を据え紺瑠璃の皿に銀色の餅とざくろを盛ったのを右手に捧げ、左手に扇をかざしつつ、雪の上に汗袴(かざみ)をながく引きちらして縁先を下って参ります。
 下にも同じような女の童が、御銚子に酒を入れ、これも扇をかざして前のに続いて来て、車上の白河院にお皿と盃を奉ります。
 すると、また唐衣を着た女房がきざはしを下り、松の枝に何か綿に包んだようなものを奉るべく、庭の雪の上を艶なる袴ふみちらし院の車の前に参ります。折ふしまた泡雪が一しきり降り出し、いかにも物語めいた情景になりました。そこで雪は内で観るものでなしと言う小野の尼宮の歌など思い出したというのであります。

 昔はこのようにやんごとなき九重(ここのえ)の奥深きにおわす人にすら、雪はわざわざ山野に出て見るという真の風流があったようです。

 また江戸情趣豊かな時代には「雪見に出たか山谷舟」と、雪見酒は粋な遊びとされていました。とり分け江戸の雪見に船はつきもので、雪見に使う猪牙船(ちょきぶね)の船宿は、今の待合と料理店を一緒にしたようなものでありました。

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 このように、古来雪見の宴は風雅中心であり、花見の解放的なのに較べ、しっぽりとしたお色気もあったようですが、花見酒のような野暮な傷害ざたなどは起こるべくもありません。しかしその反面、有閑階級の優雅・粋遊といったものであったといえましょう。

 さて、現代の皆様方、たまたま降った雪の夜などは、別に舟を浮かばせなくとも、また車を走らせなくても、一つお家庭の置炬燵で差し向かいで、ガラス障子越しの雪見酒などいかがでしょう。



…… 編集後記 ……


 毎度のことながら、富田通信の締切が近づいてくるとネタ探しに四苦八苦し、今日こそは書かなきゃ、明日こそは書くぞ!と内心焦りながらも、無性に仕事から離れた本を読みたくなります。

 で、今読んでいる本が永六輔さんの「無名人名語録」と「普通人名語録」。講談社文庫の出版でとっても面白い本です。その中から一つ紹介します。

「こうやって東京を離れて、山暮らしをしているとね、むかしの友人が訪ねてきて、田舎はいいなァなんてね。やたらに感激して帰っていくんですよ。

ホントのところ、私も一緒に東京に帰りたいんですけどね。アウト・ドア・ライフとか気取っちゃった手前、ジーッと我慢して・・・。



 そりゃね、一年のうちに何日かは山もいいなァと思います。何日かは・・・。自然のなかで生きるったって、ターザンじゃないわけですから、暮らすなら町がいいですよ。・・・田舎には人情がなんていうけど、暮らしてごらんなさい。あるもんですか!

ここんとこ、なんか帰る理由がないかなと考え続けているんです」

 今年も残すところ20日余り。年賀状書かなくっちゃ。


……… 商品紹介 ………


亀の井・美山錦純米酒『雪しずく』(限定品)

 今年もいよいよ新酒の時期になり、酒蔵は活気に満ちております。亀の井酒造より、毎年大好評の初しぼり生酒・『雪しずく』が発売になりました。 ラベルは天の川に雪をあしらったような、今井繁三郎画伯のとっても素敵なオリジナルラベルです。

  月山の 雪を香をらす 初しぼり酒

 新鮮な旬の味わいをぜひ一度お試しください。た手前、ジーッと我慢して・・・。

1.8L    2,300円
720ml   1,200円

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初孫・吟醸初しぼり『雪色ぽえむ』

 酒蔵の軒先に真新しい杉玉(さかばやし)がつるされる頃、蔵の中には新酒の芳醇な香りがたちこめます。

 『雪色ぽえむ』は爽やかな香りと新鮮な味わいの美山錦100%の吟醸初しぼりです。

720ml2本化粧箱入り 3,000円


出羽桜『蔵出し大吟・一耕セット』

 夏と冬の2回しか出荷しない『蔵出し大吟・一耕セット』。夏の分はすぐ売り切れました。今回も20セット入荷しました。

 冷やして美味しい大吟醸酒、冷や良し燗又良しの純米酒・一耕。お酒の好きな貴方にぴったりなセットです。

蔵出し大吟720ml・一耕720ml
各一本入 3,000円

出羽桜『大吟醸古酒飲み比べセット』

 去年、出羽桜酒造から作っていただいたセットを、当店自慢の冷蔵貯蔵でさらに一年熟成させた、富田酒店オリジナルセット。

 「大吟醸五年古酒」の淡々とした味わい、「大吟醸二年古酒」の華やかな味わい、53%という吟醸酒並みの精米歩合を誇る軽い味わいの純米酒「一耕」。どれをとってみても、酒の逸品ばかりです。

300ml×5本
(大吟醸五年古酒2本・大吟醸二年古酒2本
                ・一耕1本)
5,000円

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E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール