第60号(92.09.10)

月見酒

 庭の虫の音、木々の葉を吹き渡る風のささやき、青く澄みわたった高い空、あちらこちらに透明な秋の気配が漂いはじめています。9月初めまで着ていたTシャツも、今は長袖に変わりました。ひんやりと冷気を含んだ風が、暑さで痛めつけられた身体の疲れをひと吹きごとに取り去ってくれるような気がします・・・。

 さて、9月といえばお月見ですね。新庄では十五夜を豆名月、十三夜を栗名月と呼んで豆や栗をお供えしてお月見をしますが、今回の富田通信は月見酒について、「酒おもしろ語典」より抜粋してご紹介しましょう。

月見酒

 中国の古詩の中に、月を観察し月を写生し詠んだものが少なくありませんが、月を肴に酒を飲んだという詩はあまり多くありません。その珍しい詩の中の一つに、李太白の有名な次の詩があります。

把酒問月     酒を把って月に問う

青天有月来幾時  青天月有りてより来のかた幾時ぞ

我今停杯一問之  我 今杯を停めて 一たび之に問う

人攀明月不可得  人は明月を攀(よ)ずる 得可からず

月行却與人相随  月行却って人と相随す

皎如飛鏡臨丹闕  皎として飛鏡の丹闕(たんけつ)に臨むが如く

緑煙滅尽清暉発  緑煙滅し尽くして 清輝発す

但見宵従海上来  但だ見る 宵に海上より来るを

寧知暁向雲間没  寧んぞ知らん 暁に雲間に向かって没するを

白免擣薬秋復春  白兎(はくと)薬を搗(つ)きて 秋復た春

垣娥孤棲與誰鄰  垣娥孤棲(こうがこせい)して誰とか隣す

今人不見古時月  今の人は見ず 古時の月

今月會経照古人  今の月は會経て 古人を照らす

古人今人若流水  古人今人 流水の若きも

共看明月皆如此  共に明月を看る 皆此の如し

唯願当歌対酒時  唯だ願う 歌に当り酒に対するの時

月光長照金樽裏  月光の長く金樽(きんそん)の裏を照らさんことを

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 この詩は月を礼讃するのに擬人法を用いるなど、その構想の大きいことは、中国の月見の詩の中の雄ともいえましょう。

 また李白に続いての賛美家は蘇東坡(1036〜1101)であり、かの「赤壁の賦」は、つまり「観月舟遊」の詩であります。

 これらの観月の習慣がやがて日本にも伝わって来て、月暦八月十五夜と、九月十三夜に月見の宴が行なわれ、しかもそれには必ず酒が伴うようになったのであります。

 上杉不識庵謙信(1530〜1578)は、春日山上の陣中に観月の宴をはったとのことでありますが、その夜彼が酒興に乗って詠った即興詩「九月十三夜」は

 霜は軍営に満ちて秋気清し
 数行の過雁月三更
 越山并(あわ)せ得たり能州の景
 遮(さもあらばあれ)莫家郷の遠征を思はんは


 これは今日なお宴席などに朗吟され、彼をして文武双絶の名将とうたわれるゆえんとなっています。

 そのように日本には酒にちなむ観月詩や、観月歌句が多く残されているのは、月見の本山中国よりも、酒との親しみが多いからでありましょう。それに、大空の月を肴にするということは、雪や花以上に雄大ではありませんか。それゆえに、月見は花見ほどの賑やかさはもとよりなく、雪見よりもなお落着いたものになるのでありましょう。  


…… 編集後記 ……
 毎年のことながら、新庄祭の一ヵ月にもわたる連夜の山車作りですっかり夏バテ。ただただ体力と気力の回復を待って、日がな一日ボケーっとしております。



商 品 案 内

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地元の酒造メーカーの新庄酒造さんが、新酵母YK−2911を使用して造った美山錦50パーセント精米の純米吟醸酒です。

 バナナを思わせる香りのソフトな吟醸酒。ぜひお試しください。

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各500ml  ¥1,000

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…… 第五回『名酒を楽しむ集い』ご案内 ……

 日本吟醸酒協会会長の篠田次郎先生をお迎えして、第五回『名酒を楽しむ集い』を開催いたします。

 今回は特に、当店が冷蔵熟成した大吟醸古酒を日本料理で楽しんでいただこうというものです。 二度とない企画です!
 ぜひご参加くださいますようご案内申し上げます。

日時:平成4年10月24日(土)
      受付:午後6時
      開宴:午後6時30分
会場:つたや本店
   新庄市常葉町3−25 tel 22−0434
会費:8,000円
定員:50名
主催:富田酒店



○大吟醸古酒リスト
 栄光冨士「古酒屋のひとりよがり」六年古酒
  出羽桜「大吟醸」五年古酒
 吟醸酒純米吟醸酒「一路」五年古酒
 麓井「金賞受賞酒」二年古酒
 亀の井純米吟醸酒「くどき上手」二年古酒
○なお、誠に勝手ながら準備の都合上、前売り券を販売させていただきたいと思いますので、会費8,000円を添えて富田酒店までお申し込みください。当日券はございませんのでご了承ください。


篠田次郎先生の略歴

昭和8年仙台市生まれ/福島大学経済学部卒業
篠田安藤建築設計事務所・ジェイナスコンサルタンツ代表取締役/幻の日本酒を飲む会・雀醇宿主催日本吟醸酒協会会長
著書に
『日本の酒づくり』『幻の日本酒を求めて』『最新吟醸酒』『ホームめざして』『酒造工場設計の考え方』『吟醸酒誕生』など多数


篠田次郎先生の似顔絵(漫画家の高瀬斉さんの絵)

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E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール