第57号(92.06.10)

ハネムーンの酒・ミード


 六月に入って、雨と低温にたたられた五月が嘘のような晴天続き。やはり、雨よりは晴れの方が気持ちがいいですね。家の近くではカッコウが鳴き、苗が整然と植えられた田圃の水面を渡る風が、汗ばんだ肌に心地好さを残して通り過ぎていきます。
 ところで六月といえば、ジューン・ブライド、六月の花嫁、結婚式のシーズンですね。そこで今回の富田通信は、ハネムーンという言葉が生まれるきっかけになった、「ミード」というお酒について書いてみましょう。

花嫁がつくる酒・ミード

「ミード」というお酒、みなさんは知っていますか? もし、ご存じでしたらよほど酒について造詣の深い方か、あるいは西洋文学に明るい方でしょう。というのは西洋文学では、蜂蜜酒と書いて「ミード」とルビを打ってあることが多いからです。この「ミード」は、蜂蜜を原料としてつくられたお酒です。たいがいの酒屋さんでは、扱っていないはずですし、もちろん当店でもありません(ハハ、 自慢ニャナラナイデスネ)。

 それというのもこの「ミード」、イギリスの花嫁がいとしい旦那様のために、みずからつくって飲ませるという質のものだからです。(日本では、自分で酒をつくることは酒税法で禁止されていますが)。もっとも、最近ではイギリスでも自分でつくる花嫁は珍しくなって、商品化されているという話ですが。

 話をもどして、ミードの歴史と参りましょう。ローマの英雄ジュリアス・シーザーもミードを愛飲したと歴史家は書いていますが、ミードの歴史はさらに古く神話伝説の時代にさかのぼります。

 『人類の祖先を探る』(京大アフリカ調査隊の記録・今西錦司著)の中にもミードが出てきます。東アフリカの未開の狩猟部族テインデイガ族が野性の蜂蜜を集め、これを遊牧民のマンガテイ族が買ってミードをつくる記録です。

 狩猟や野性の植物をあさることで生活しているテインデイガ族は、採集した蜂蜜を食べるだけで酒の原料には使いません。

 一方、すでに牧畜の技術を身につけたマンガテイ族は酒好きで、彼らの格式ばった社会の中で、たえず酒をつくり酒を飲みます。儀式ばった生活のその都度に酒がないと、マンガテイ族はやっていけないのでしょう。

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 ミードすなわち酒は民族学でいう「ハレ(神祭)の食品」となっているのです。マンガテイ族の習俗では娘の結婚する折、父親は蜂蜜の酒をつくって人々をもてなさなければなりません。また、人が死んで葬式をやるときも、その息子は蜂蜜の酒をつくって人々に飲まさなければなりません。

 蜜蜂の巣から取り出したばかりの蜂蜜には天然の野性の酵母がすみついています。糖分が高いので醗酵が起こらないだけのことです。水で薄めさえすればたちまち、ふつふつと泡立ち、醗酵を始め、一夜にしてミードとなります。ミードが、ワインと同様に古い古い歴史をもつのも、簡単に酒になるからでしょう。

 このミードがいつごろイギリスに渡ったかは定かではありませんが、イギリスでは、いつしか結婚式の酒となって定着しました。さらに結婚式のあと、若夫婦は半月間は必ずミードをつくり、それを飲む風習が生まれました。昔は花嫁はこの半月間、一生懸命に蜂蜜でミードをつくり、それをいとしき夫に飲ませ、せっせと子作りに励みました。(誰? コワイなどといっているのは)。ここからハネムーン(蜜月)という言葉が出来たということです。

 そういえば昔読んだ『みちのく実説・よばい物語』という本に、「幸せとは、し(交)合わせること。即ち男女交合の歓喜天を云ったものである。」という序文がありましたっけ・・・。話がだいぶ危なくなってきたところで、今回の「ミード」の巻はおしまい。



全国新酒鑑評会入賞酒発表(山形県)
 去る5月15日におこなわれた全国新酒鑑評会の入賞酒の山形県の酒を紹介します。

★印は金賞受賞酒、無印は銀賞受賞酒です。

★霞城寿 ★羽陽男山 出羽桜 秀鳳 山形正宗★千代寿 銀嶺月山 ★あら玉 ★みちのく六歌仙 ★初孫 ★上喜元 ★清泉川 ★麓井 ★東北泉 ★栄冠菊勇 奥羽自慢 ★栄光冨士 志ら梅 ★若乃井 ★羽前桜川 東光 ★米鶴 羽陽辨天

 以上金賞15蔵、銀賞8蔵でした。

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 商 品 案 内

初孫『しおさい物語』

 初孫より特別本醸造(精米歩合60パーセント以下)『しおさい物語』が発売されます。酒造好適米「美山錦」を丹念にみがき、北の日本海に面する砂丘地の良水で醸しあげた特別本醸造。

 冷やすと旨さが一段と冴えるお酒です。

アルコール度:15.2  日本酒度:+2
酸 度:1.3 精米歩合:麹米55% 掛米60%
原料米:美山錦

720ml2本発泡スチロール箱入り・化粧蓋付

夏期限定販売  ¥2,500


※亀の井『雪しずく』、出羽桜『枯山水』は売り切れとなりましたので、ご了承ください。今度の入荷は今年の秋〜冬になります。


…… お知らせ ……

 富田通信が5周年を迎える今年の10月に当店主催の『第五回・名酒を楽しむ集い』を計画しております。

 今回の『名酒を楽しむ集い』は、全国の吟醸蔵80社で組織している日本吟醸酒協会会長の篠田次郎先生をお迎えして、当店が冷蔵熟成した大吟醸古酒を日本料理で楽しんでいただこうというものです。

 篠田先生は本業が建築家で、酒蔵の建築をしているうちに、当時まだ世間に知られていなかった吟醸酒に出会い、その旨さに感激して、以来、20数年ボランティアで吟醸酒の普及に力を注いでこられた方です。日本全国から引っ張りだこの篠田先生が、多忙の中、新庄に来ていただけることになりました。

 篠田先生によれば、小売店が冷蔵貯蔵した大吟醸古酒を楽しむ会は山形県はおろか日本でも初めての試みだそうです。

 参加資格は、お酒を愛する方はどなたでもけっこうです。特に女性は大歓迎です。

 なお、『第五回・名酒を楽しむ集い』の詳細は7月号の富田通信に書きますのでご期待ください。

 参加定員は50名です。『名酒を楽しむ集い』のお問い合わせは、富田酒店までお願いいたします。

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E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール