ハネムーンの酒・ミード
六月に入って、雨と低温にたたられた五月が嘘のような晴天続き。やはり、雨よりは晴れの方が気持ちがいいですね。家の近くではカッコウが鳴き、苗が整然と植えられた田圃の水面を渡る風が、汗ばんだ肌に心地好さを残して通り過ぎていきます。 ところで六月といえば、ジューン・ブライド、六月の花嫁、結婚式のシーズンですね。そこで今回の富田通信は、ハネムーンという言葉が生まれるきっかけになった、「ミード」というお酒について書いてみましょう。 花嫁がつくる酒・ミード 「ミード」というお酒、みなさんは知っていますか? もし、ご存じでしたらよほど酒について造詣の深い方か、あるいは西洋文学に明るい方でしょう。というのは西洋文学では、蜂蜜酒と書いて「ミード」とルビを打ってあることが多いからです。この「ミード」は、蜂蜜を原料としてつくられたお酒です。たいがいの酒屋さんでは、扱っていないはずですし、もちろん当店でもありません(ハハ、 自慢ニャナラナイデスネ)。 |
それというのもこの「ミード」、イギリスの花嫁がいとしい旦那様のために、みずからつくって飲ませるという質のものだからです。(日本では、自分で酒をつくることは酒税法で禁止されていますが)。もっとも、最近ではイギリスでも自分でつくる花嫁は珍しくなって、商品化されているという話ですが。 話をもどして、ミードの歴史と参りましょう。ローマの英雄ジュリアス・シーザーもミードを愛飲したと歴史家は書いていますが、ミードの歴史はさらに古く神話伝説の時代にさかのぼります。 『人類の祖先を探る』(京大アフリカ調査隊の記録・今西錦司著)の中にもミードが出てきます。東アフリカの未開の狩猟部族テインデイガ族が野性の蜂蜜を集め、これを遊牧民のマンガテイ族が買ってミードをつくる記録です。 狩猟や野性の植物をあさることで生活しているテインデイガ族は、採集した蜂蜜を食べるだけで酒の原料には使いません。 |
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ミードすなわち酒は民族学でいう「ハレ(神祭)の食品」となっているのです。マンガテイ族の習俗では娘の結婚する折、父親は蜂蜜の酒をつくって人々をもてなさなければなりません。また、人が死んで葬式をやるときも、その息子は蜂蜜の酒をつくって人々に飲まさなければなりません。 このミードがいつごろイギリスに渡ったかは定かではありませんが、イギリスでは、いつしか結婚式の酒となって定着しました。さらに結婚式のあと、若夫婦は半月間は必ずミードをつくり、それを飲む風習が生まれました。昔は花嫁はこの半月間、一生懸命に蜂蜜でミードをつくり、それをいとしき夫に飲ませ、せっせと子作りに励みました。(誰? コワイなどといっているのは)。ここからハネムーン(蜜月)という言葉が出来たということです。 |
そういえば昔読んだ『みちのく実説・よばい物語』という本に、「幸せとは、し(交)合わせること。即ち男女交合の歓喜天を云ったものである。」という序文がありましたっけ・・・。話がだいぶ危なくなってきたところで、今回の「ミード」の巻はおしまい。
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※亀の井『雪しずく』、出羽桜『枯山水』は売り切れとなりましたので、ご了承ください。今度の入荷は今年の秋〜冬になります。
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