第55号(92.04.10)

掛留・こしきだおし

 桜の花芽もだいぶふっくらと膨らみ、頬をなでる風にもいくぶん優しさが増してきました。いま、まさに春が始まろうとしています。この分だと今月の下旬頃にはお花見ができそうです。

 ところで、去る3月27日、新庄地区の酒蔵である最上川さんと花羽陽さんの合同のこしきだおしのご祝儀に招待されて、たいそうな料理と美酒をご馳走になってきました(ハハハ、酒屋の役得です)。

 そこで今回の富田通信は、皆様方にはあまり馴染みのない言葉かもしれませんが、「こしきだおし」について坂倉又吉氏の『酒おもしろ語典』から抜き出して書いてみましょう。

掛留・こしきだおし

 「かけどめ」とは、我々酒屋にとって、一番おめでたい行事であって、それは冬中毎日(あるいは隔日)続けていた、大桶(今では大タンク)に一本ずつの酒の仕込みが、今日をもってやっと終わったという日にあたるのです。それを「掛留」というわけは……

 ちょっと専門的な話になりますけれども、酒の仕込みに当たっての主原料は、麹(こうじ)と蒸米と水なのですが、まず最初に小さい桶(タンク)にそれだけのものを混ぜて酒母を仕込み、それが20日ばかりで出来上がるとその酒母をもとにして、今度は大桶(今では大タンク)に移して、本仕込み(もろみの仕込み)をします。

そしてその第1日が初添(はつぞえ、単に添ともいう)、第2日は踊りといってその日はそのままにして踊らせ(醗酵させ)、第3日に仲添(なかぞえ、単に仲ともいう)、そして第4日目が留添(単に留ともいう)といいます。つまり、「添、仲、留」の3回に分けて、さらに麹・蒸米・水を掛けて、その量もその都度、一、二、三倍と増していき、最後の「留」のときでの量が、それぞれの蔵の規模によって違いますけれども、大体3キロから6キロリッター位になるのです。そんな作業を毎日毎日続けて、一日に1本ずつ「留」をするのが日仕舞、隔日に1本ずつ「留」をするのが半仕舞と呼んでおります

 さて、そんな仕事を、冬のうちの、しかも一番寒い時刻の早朝2時頃にもう一番方が起きて毎日続けてやっていたのですから、その厳しい作業が今日をもって終わる日、すなわち麹と蒸米と水をもろみに掛けることが留まる日というわけで、「掛留」というのです。

 また、このことを「こしきだおし」または「こしきころばし」「こしきおとし」などというのは、この米を蒸すところの、いうなればセイロのおばけのようなのを甑(こしき)といいますが、その「こしき」が用ずみになって、大釜の上から倒す(ころばす、おとす)というところから来ているのです。またそのことを、「どころばし」という地方もありますが、このドというのは、フカシドすなわち甑のことです。この日は、杜氏以下の蔵人を正座に据え、主人が下座で慰労の宴を張るのが通例のようです。

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『吟醸酒誕生』出版記念クイズ
当選者発表!

 先月号の富田通信の『吟醸酒誕生』(篠田次郎著、実業之日本社、1,500円)出版記念クイズ、ご応募有り難うございました。それでは、早速正解と当選者の発表をすることにいたします。


正解

 正解は「方言」です。東北を舞台にしたシーンでは、方言を使っているのに、関西、九州を舞台にしたところでは、「共通語」を使っています。

当選者(栄光冨士・「古酒屋のひとりよがり」一本進呈)

 埼玉県大宮市  藤原寛治様


商 品 案 内

出羽桜・ニュータイプ純米吟醸酒
一枝春( いっししゅん)

 鑑評会タイプの吟醸酒とは、まったく違う純米吟醸酒。山形県酒造組合連合会が山形県工業技術センターの指導のもと、バイオ技術を駆使して3年がかりで探した新酵母を使い、変則二段仕込みで醸した純米吟醸酒です。

 吟醸香が高く(一般の吟醸酒の約2倍)、少し甘酸っぱい。のど越しが爽やかで飲み飽きしません。少し酒が進んでからが本領発揮、すいすい頂けます。料理との相性も抜群です(薄味の料理には火入れ一枝春。濃い味の料理には本生一枝春)。

 冷凍庫で凍らせて(みぞれ酒風にして)、または冷たく冷やしてお召し上がりください。

一枝春(本 生)
  度数15.8 酒度−9 酸度 2.2
720ml  \2,000

 一枝春(火入れ)
度数12.8 酒度−7 酸度 1.8
720ml ¥1,700

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鈴蘭(岩手)・特別純米自然酒
『北リアスからの風』

 陸中海岸国立公園の最北端・侍浜(さむらいはま)の美しい赤松林に囲まれた台地から汲み出された安全でおいしい地下水。

(財)自然農法国際研究開発センター岩手支部へ依頼して契約栽培した化学肥料を全く使用せず、化学農薬も全く使わずに作った生命力溢れる自然農法米。

 この二つが出会って醸し出されたハーモニーがこの特別純米自然酒「北リアスからの風」です。

 コクのある辛口酒です。

 なお、二月号で紹介しました、『しぼりたて生・北リアスからの風』は売り切れましたのでご了承ください。

1.8L ¥2,500

日本酒度±0 酸度 2.1

編 集 後 記
 待ちに待ったヤマメの解禁。4月5日に竿をかついで行ってきました。当日は日曜にもかかわらず、息子の保育所の入所式。しかも日頃の行いが悪いせいか昼前から雨・・・。でもヤマメの魅力に負けてカッパを着込んで2時頃から出掛けてきました。釣果は、20〜22センチのヤマメが5匹だけ。まぁ、入所式のお祝いには、充分な数でしょうか。

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E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール