第52号(92.01.10)

酒の異名・隠語

 新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 さて、今年は申年。猿と言えば猿酒。この猿酒なるもの、信州や東北のきこりや炭焼きが山で酒を密造していっぱいひっかけ、いい心持ちになって里に下り、「いや〜、山で猿酒を見つけて飲んできた。」というのが、どうやら真相のようです。ちなみに、イギリスやアメリカでは酒の密造のことを、ムーン・シャイン、密造者のことをムーン・シャイナーといいます。つまり、夜になると山に行って月明かりの下で酒を造り、酒を飲み、すっかり酒焼けした顔を、サン・シャイン(日焼け)に掛けてムーン・シャイン(月焼け)と洒落たわけです。洋の東西を問わず、酒呑みは、なかなか洒落ていますね。

 そこで今回の富田通信は、酒の異名・隠語を集めてみました。

酒の異名

「百薬長」……これはどれをさておいても酒屋と愛酒党たる者、まず第一にあげねばなりません。酒は不老長寿の妙薬とされています。
「海老」(かいろう)……これも長寿を意味します。
「ささ」……酒などをすすめるときの言葉「ささ」から転じた酒の女性語。

「富水」(ふすい)……酒飲めば自ずと心も豊かに富む、下戸の建てたる蔵はないの例え。
「甘露」(かんろ)……おお、甘露! 甘露!」などという。うまい飲み物の意。
「瑞露」(ずいろ)……めでたい飲み物。
「天の美禄」……天からさずかったまたとない美味しい飲み物。
「聖賢」……聖は清酒、賢は濁酒のこと。その起こりは三国時代、曹操が禁酒令を出したとき酒飲み連が隠語として、清酒を聖人、濁酒を賢人といったところから出ています。
「般若湯」(はんにゃとう)……寺院で僧侶たちが用いた言葉で、智慧の湯の意。
「大乗水」…… 仏教で教法の広大なことに依って全大衆を乗せて悟りの境地に至らしめるという意味を飲酒の気分にむすびつけたもの。
「大乗水」…… 仏教で教法の広大なことに依って全大衆を乗せて悟りの境地に至らしめるという意味を飲酒の気分にむすびつけたもの。
「硯水」(けんすい)……硯の乾いたのに水をうつすように、疲れた者に酒を与えると慰められるというところから。
「九献」(くこん)……杯を三献ずつ三度さす。これは酒の飲み方自体が、酒の名詞になったもの。「三遅」(さんち)……盃に入った酒が三たびめぐって静まるときに飲むべし。つまり、ゆっくり飲むべきもの。

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「狂い水」(きちがいみず)……こればかりは愛酒家たるものの最も嫌忌する呼称ですが、酒癖の悪い人、酒に弱い人にとってはあるいはそうかもしれません。

酒の隠語

「いた」…… 日本酒のこと。伊丹から出たもの。
「きす」……酒類一般。方言の変化したもの。
「おにぎす」……焼酎。鬼のように強いという意味。
「にがぎす」……ビール。苦みがあるから。
「すい」……清酒のこと。
「てっべん」…… 強い酒。駿河地方の方言より。
「とり」……酒類一般。酒の字の酉から出た。
「ひだり」……酒類一般。左ききから出ている。
「みずとり」……酒類一般。水酉である。
「もんつき」……酒菰。紋付からでている。
「ジューリ」……どぶろく。濁り酒だから、ニゴリ(二五里)と洒落、二五の「十里」とした。
「すみません」……どぶろく。澄まないから。

 いや〜、密造酒の隠語は実に味わい深いものが多いですね。敬服します。

酒の名を聖とおほせし古の大き聖の言のよろしき

大伴旅人

1991地酒年間ベスト10発表!

 酒の情報誌「びくん」恒例の1991年の地酒年間ベスト10が発表になりましたのでお知らせいたします。これは地酒屋(当店も参加)さんが実際に販売した結果によるものです。

吟醸酒部門


銘  柄

銘  柄

1

出 羽 桜

山形

14

梅 乃 宿

奈良

2

久 保 田

新潟

15

くどき上手

山形

3

白   瀧

新潟

16

銀   盤

富山

4

菊   姫

石川

17

末   廣

福島

5

天 狗 舞

石川

17

諏 訪 泉

鳥取

6

満 寿 泉

富山

18

八 海 山

新潟

7

琵琶の長寿

滋賀

19

越乃白雁

新潟

8

〆 張 鶴

新潟

20

梅   錦

愛媛

9

綾   菊

香川

21

清   泉

新潟

10

開   運

静岡

21

栄光冨士

山形

11

萬 寿 鏡

新潟

22

酔   鯨

高知

12

磯 自 慢

静岡

22

刈   穂

秋田

13

北   雪

新潟

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新製品部門

銘  柄

1

白瀧・緑端渓

新潟

2

越の誉・少納言

新潟

3

万歳楽・春浮橋

石川

4

綾菊・5年熟成吟醸酒

香川

5

初孫・夢工房

山形

6

妙高山・越乃雪月花

新潟

7

李白・両人対酌

島根

8

亀の井・花雪草紙

山形

9

北リアスからの風

岩手

10

出羽桜・春雷

山形




編 集 後 記

  今年は、ほとんど雪のない正月を迎えました。屋根の上のわずかな雪から流れ落ちる雨だれの音を聞きながら、締め切り間近の富田通信を書いています。

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