第50号(91.11.10)

お燗について

 もう、霜月。振り返ってみれば、今年は雨と台風の年でした。今も冷たい雨が降っています。最上地方の米の作況指数は著しい不良。中庭のもみじも色付かないまま、散っていきそうな気配です。
 目を山に転じれば、山ぶどうもブナの実もまったくの不作。人間にとっても動物たちにとっても試練の年になりそうです。そういえばこの間も、近くの国道で熊がトラックにはねられて即死したとのニュースが新聞に載っていましたっけ・・・。
 こんな日は、ゆるりと酒を暖めて、冷えきった心と身体を温めることにいたしましょう。

 そんなわけで、今回の富田通信は「お燗」についてあれこれを、坂倉又吉氏の本より抜き出してあれこれ書いてみましょう。

鉄びんの ふちに枕し
  ねむたげに 徳利かたぶく いざわれもねむ

若山牧水


お 燗

 寒くなってきますと「あつかんでキュッと一杯がたまらない」とかいわれます。たしかに、屋台店の縄のれんへ首を入れて、背筋に寒風を感ずるときの一杯はあつ燗に限るようです。しかし、五臓六腑にしみわたる程のあつ燗を召し上がるのは本当の酒つうとはいえません。

 お酒の適温は、その酒の質や、そのときの外気により違いますから一概にはいえませんが、平均したら50度位が適当というべきでしょう。そして、どちらかというと悪い酒ほどあつ燗でまぎらすが良く、特に良い酒は人肌程度のぬる燗が良いのです。

 それはさておき酒のお燗はいつごろからするようになったのでしょうか。芝田晩成氏の『酒道』によれば、日本酒のお燗についてはすでに今から千年前の記録に「重陽の節句(9月9日)より、ひなの節句(3月3日)まで」とあるそうですし、『三養雑記』によれば、「酒をあたためること、昔よりのならわしなれど、今の世のごとく四時とも常にあたたむるにあらず、延喜式内膳司の土熱鍋は今のかん鍋にて、上古よりその器あれど、暖酒は重陽宴よりあたためて用うるよし、温古目録に見えたり」とあるそうです。

 これからみますと、昔は燗とはいわず「あたたむ」と言っていたようですが、それはおそらく漢から伝えられたのでありましょう。白楽天の詩に「林間に酒を煖めて紅葉を焚く」とあります。

 してみますと、酒をあたためて飲んだ元祖は中国に違いありません。 「酒の字の起源」にご紹介しましたように、酒の字の起源は、酒器をかたどった象形文字がだんだんに変化して「酉」になったのですが、そのはじめの頃の殷の時代の文字は左のように酒器の先が尖っていました。そのわけは、酒を直火であたためるために酒器を灰や地面につきさして使ったからに違いありません。

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 それでは、その酒をあたためることをなぜ「燗」というようになったのでしょうか。

 『大言海』によれば燗の字は火と間の合字で温熱の中間の意であって、酒や茶を沸す温熱の程度をいうのであります。そしてもとは「間」と書いていたのが燗になり、やがて酒だけに用いられるようになり、それも徳利などに酒を入れて湯の中へ入れてあたためることをいうようになりました。またやかんや燗鍋に入れて直接火にかけるのを火燗(ひかん)または直燗(じきかん)といいます。

お燗の常識・非常識???

○生酒はかならず冷やで?

 香りの良さとフレッシュさで、この頃人気がうなぎのぼりの生酒。冷たく冷やして飲むとうまいですよねぇ。

 ところがこの生酒、意外な飲み方があるんです。出羽桜酒造の常務、仲野さんから聞いた話では・・・。

 あるとき、仲野さんが居酒屋で「お燗酒」を注文したところ、あまりの旨さにびっくり。「女将さん、これ、どこの酒。うちの酒じゃないべ」「何いってんの」といって出された酒が出羽桜の純米生酒。これには仲野さんも二度びっくり。生酒もひと夏すぎて一段と旨くなり「お燗酒」に向く酒質になるとは。 いやはや、お酒は奥が深い。あなたも一度ためしてみては。

商 品 案 内

初孫・吟醸あらばしり『寒すばる』
 もろみの重み自身でふなくちから最初にたれ落ちるしぼりたてのお酒を詰めました。フレッシュな味と香りが特徴です。
 限定発売 720ml詰2本入 ¥3,000
     11月下旬入荷予定



東光・純米吟醸酒『花一輪』
 米のうま味を生かした純米吟醸酒で、やわらかな味わいと香りがなんともいえません。
 アルコール度:15.5 日本酒度:+3
 酸 度:1.2    原料米:美山錦
 精米歩合:55%  容 量:1.8L
 価 格

¥2,800



東光・本醸造生貯蔵酒『星の降る里』
 かるい風味の低アルコール酒
 アルコール度:13〜14% 容量:300ml
 価 格

¥420

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出羽桜・純米酒『一耕』卓上サイズ
 爽やかな軽さで好評の出羽桜『一耕』についに卓上サイズが出ました。 容量:720ml
価 格   ¥1,100(火入れ)
  ¥1,200(本生)



……… 編集後記 ………

  異常気象のせいか、はたまた鬼の霍乱か、ついに風邪をひいてしまいました。喉は痛いし、鼻は詰まるし。おまけに何を食べても味がわからず・・・。しかたがないので渓流釣りのビデオを見ながらボーッと暇つぶし。いや〜参りました。

 今はだいぶ良くなってお酒の美味しさも分かるようにはなりましたが、富田通信の発行がすっかり遅れてしまいました。ほんと申し訳ありません。

 皆さんもくれぐれも身体に気をつけましょう。




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