第38号(90.11.10)

酒癖さまざま

 地球の温暖化現象説に、思わずうなずきたくなるような昨今の陽気ですが、11月ともなると、そろそろ忘年会のシーズンですね。宴席では、酔人がいろいろな癖を披露します。今回の富田通信は、この酔人の癖について書いてみることにしましょう。

三上戸(酒おもしろ語典より抜粋)

 上戸(酒飲み)はその酔ったときの癖によっていろいろと分類されていますが、そのうち一番代表的なのは、泣き上戸、怒り上戸、笑い上戸の三上戸でしょう。

白河の殿様で幕府の大老、松平楽翁の酒席の醜態を記した文章の中に、三上戸を評して妙なる一説があります。三上戸の酔態を見事に描写していますのでご紹介しましょう。

「(前略)酔い泣きするは過ぎ来し事など言い出でて雨しずくと泣けば、酒のむ程にこの座を立去れよと言えば、酔はぬものを酔うと言うぞ悲しきとて、ひた泣きに泣くを、酔うて腹立つ者ききて、この祝の席に涙こぼすぞ心得ぬ、稀有の振舞するならば、この筵にはつらなるまじと、いららかに言うを、酔うて笑う者打ちききて、何のかなしき事もふくるる

事もなきを、あの涙おとす風情怒り罵じるさま、いとめづらしとて腹うち抱えて笑う(中略)きのう酒を飲みて、心地死ぬべくありとて枕により、粥すすりて酒の匂も嫌うまま、下戸にやなりなむと見れば、程なく始にかえるぞ悲しき。」

 実に辛辣に、うまく書いています。この松平楽翁という人は殿様でありながら民衆のそんな生活をよく知っていたものとみえます。

 ちなみに、このお殿様は越中褌を発明した人だそうで、さすがに下情に通じた書きぶりであると感心させられます。
酒のめば心なごみて涙のみ
         悲しく頬を流るるはなそ
酒のめば涙流るるならはしの
         それの独のときに限れり

若山牧水



雑上戸

 前記の三上戸のほかにもいろいろな上戸があります。
 まず落語に出てくるのが壁塗り上戸。「いや、もう駄目、もう飲めません、いけません」と手を振ってお酌をことわるのですが、酔っているので、手の振りが大きくなる。

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しまいには両方の手で交互に、右へ左へ大きく振るその様子が、ちょうど壁を塗っているようだ、というところから、壁塗り上戸といわれます。次に出てくるのが「鶏上戸」。酌をしてもらって、盃に溢れそうになるので、思わず口を突き出し「おッーとっとっとっ・・・(飲む)・・・もうコケッコウ(結構)」と言う癖の人を指すそうです。
飲めば酔い、酔えばすぐ寝るいい親父

という川柳がありますが、こんな「眠り上戸」は静かでよろしい。もっとも外で飲む時には気をつけないと帰りの電車やバスの中で高鼾。とうとう終点まで乗り越して、車掌さんが「もしもし、ここはもう車庫ですよ」「なに? シャコだァ? それを肴にもう一本つけろ」・・・これも落語に出てくるお話。

 とかく酔いがまわると口も軽くなる。一番多いのが
「しゃべり上戸」。これにはいろんなタイプがあります。「大体政府は何をしているのだ。われわれ国民のことを真剣に考えているのか? ウィー」といった調子の悲憤慷慨上戸。かと思うと「俺がよく言って聞かせてやるから中曽根を呼べ。ついでに安倍も竹下も呼んでこい!」という大言壮語上戸もいます。
 また酔うと無闇に通り掛りの女に抱きついたりするワイセツ上戸、帰り道に表札を掛けかえたり立て看板を移動させたりのいたずら上戸、いくら酔っても途中の酒場の前を素通りしては申訳なくなる梯子上戸、見ず知らずの客に酒を注いで回ったり無闇に自分のものを分配したくなって電車の回数券を一枚一枚配って回るというような分配上戸、声はりあげて同席者の歌舞音曲を景気づける応援団式存在の大向う上戸、酒の蔭にかくれて自己宣伝に見えすいた行動をするちんどんや上戸等々………雑上戸の種類は数えればきりがありません。

 吉田兼好という人が、徒然草の中でこう書いています。
「下戸ならぬこそ、をのこはよけれ」
 男は酒飲み、多少癖が出ても上戸に限ると。酒飲みこそ男冥利につきる、といえるのかも知れません。

 エ〜、酒席のおぼろげな記憶たぐるに、小生はしゃべり上戸と、女の人がみんなキレイに見えたりしてちょっとだけワイセツ上戸かなぁ……かあちゃん、ゴメン

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商 品 案 内

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……… 編集後記 ………

 今は雨、午後からは雪に変わるとか。それにしても、今年の新庄は冬の到来を忘れさせるほどに暖かです。そのためか、いつもの年でしたら思わず足をとめて見惚れてしまうほどの紅葉も、いまひとつです。

 せめて次の日曜日には、七・五・三で着飾った我が娘と息子とを肴に一杯の濁れる酒でも呑みましょうか。

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