第25号(89.10.10)

10月は、お酒の月

 ご存じですね。子・丑・寅・・・の12支。「あなたは何どし?」と聞く時、年代の代名詞として使う、あの別名です。

 この12支の10番目は“酉”。もともと“酉”は壺の形を表す象形文字で、その壺はもちろん酒壺のことを指しました。文字通り、酉の月、10月は、酒の月です。

 さて、厳冬から早春にかけて仕込まれた日本酒は、涼しい酒庫で夏を越し、秋口には、さわやかに目覚めます。完熟した芳醇な味と香り…折しも秋。
 海の幸、山の幸も豊か。日本の良さ、日本酒のおいしさが、しみじみ味わえる季節です。そこで今回は、酒についてのあれこれを思いつくままに書いてみましょう。

 白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の
 
酒はしづかに 飲むべかりけり   若山牧水

酒は燗か冷やか

 日本酒を温めて飲むようになったのは大変古く、平安時代にさかのぼります。このころは今のような徳利を使った燗酒ではなく、直燗(じきかん)といって鍋や器に酒を入れて、直接火にかけて加熱していたようです。しかし、昔は常温で飲むことも普通の飲み方でした。

 なぜ燗をして飲むようになったのかには、いろいろな理由があげられます。そのひとつは、寒い冬、早く体を温めるには、この方法が最もてっとりばやかったこと、次に、冷や酒では後から酔いが急にくるけれども、温めるとゆっくり酒が入り、酔いの加減の速度を調節できるためだったのでしょう。

 ところで今日私たちが飲む日本酒は、たいてい燗をしていますが、最近は冷蔵庫の普及もあいまって、冷やして飲む人もかなり増えてきました。

 では、日本酒は燗か冷やか、それともそのままの常温か、一体どれがよいのでしょうか。それにはルールはありません。自分の好みの方法で飲むのが一番よいのです。ただし、酒質や酒の種類によっては、燗をしてはいけない酒があるので注意してください。まず香りの高い吟醸酒に、燗は不可です。香味のバランスが、熱でまたたく間に失われるので、必ず冷やしてください。また、原酒や生酒も冷やした方がよいでしょう。

酔狂人の酒

 大伴旅人は『万葉集』で「酒を讃むる歌十三首」を残し、この歌の中に、いっそ酒壺になりたいという心境を詠んでいますが、当時の人としてはなかなかの酔狂人のようでした。歴史上には、酒が絡んだ伝説的な話や奇行を残したために、後世にまでその名を馳せる酔狂人たちも数多くいます。

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 大田南畝(おおたなんぼ1749〜1823)は狂歌や洒落本に抜きん出た才能をもち、蜀山人(しょくさんじん)と号しましたが、酒をことのほか愛したことでも有名です。彼はあるとき、何を思ったのか突然禁酒をしましたが、その禁酒が破れて再び飲み出したときの狂歌に

 我が禁酒 破れ衣と なりにけり 
   さしてもらおう ついでもらおう

とありますが、破れた衣をさす、つぐにかけたこの歌に酔狂さがよく表れています。

 一休宗純(いっきゅうそうじゅん1394〜1481)も酒と文学を愛した多才な人物でしたが、彼が若くして修行僧のとき、盗み酒をしてうまくいき、味をしめてこれを他人に話した狂歌に、

 一覧し 二覧でみれば 三覧し 
       四覧顔して 五覧遊ばせ

という、まことに頓狂な歌を詠んでいます。

〔酒は燗か冷やか・酔狂人の酒は、小泉武夫著「粋な日本酒」より抜粋。〕

柿のしぶ抜きの方法(富田酒店の場合)

1.柿を密閉できる大きさのナイロン袋を用意する。
2.ナイロン袋の底に新聞紙を2〜3枚、敷く。3.柿をナイロン袋の中に入れる。
4.35度の焼酎を柿の上に、かける。
 (柿20sに対して焼酎200mlの割合)
5.ナイロン袋を密閉する。
6.じっと2週間、がまんする。
7.柿のしぶ抜き終了。

 この方法は、柿のへたに焼酎をつける方法に比べ、非常に楽です。またしぶの抜けぐあいも変わらないように思えます。ぜひ一度ためしてみて下さい。

 なお、ナイロン袋の底に新聞紙を敷くのは、底にたまった焼酎を吸い取るためです。

※お願い……このほかに、柿のしぶ抜きで良い方法がありましたら、ぜひ教えてください。富田通信の紙上で皆様にご紹介させていただきます。

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……商品紹介……

出羽桜・純米酒『一耕』のこと

 9月に発売された出羽桜・一耕(いっこう)。『一』は初め、『耕』はたがやす・・・従って「初めに耕あり」、「先ず耕す」という意味だそうです。

 農作業は先ず耕すことに始まり、丹精込めて作られた米は、大地の温もりのする純米酒の原料になります。

 さっそく、飲んでみました。うまい。この一言です。とても純米酒とは思えない驚くほどの味の軽さとキレの良さ、それでいて、ふくよかな味と香り。

 とにかく、飲んでみてください。冷やよし、燗又よしのお薦めの逸品です。

○出羽桜・純米酒『一耕』
         1. 8L 2, 200円

… 編 集 後 記 … 

 裏庭のざくろの実がいつの間にか真っ赤に色づき、ふと空を見上げるとトンボの数が急に増えていたりして・・・。

 富田通信もどうにか3年目を迎えることができました。これも皆様方の温かい励ましのお蔭です。どうも有り難うございました。今後ともよろしくお願いいたします。

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