第16号(89.1.10)

古酒・新酒

 去る1月7日に、昭和天皇がおなくなりになられ、元号も新たに「平成」となりました。

 古き昭和と新しき平成、というわけではありませんが、今回は日本酒の古酒と新酒について書いてみたいと思います。

日本酒における古酒・新酒とは?
 皆さんは、ちょうど今頃の季節に、酒屋の店頭で‘新酒’とか‘新酒・しぼりたて’とかラベルに書いてある清酒を見たことがありませんか。

 ふつう、日本酒は10月末頃から翌年の3月頃までの期間に造られます。いわゆる“寒仕込み”というやつです。そこで出来た酒をそのままブレンドせずに瓶に詰めたものが新酒として売られているものです。

 新酒は、麹ばなと言われる独特の香りがあり、味も荒いのが特徴です。

 では、古酒とはなんでしょう。古酒とは、メーカーの蔵のタンクの中で夏を越し、秋に出荷される清酒のことを言います。俗に“冷やおろし”とも呼ばれ、新酒の頃の角がとれ、まろやかな味になります。

 ただ、新酒・古酒の好き嫌いは好みの問題ですので、お好きな方を飲むのが一番だと思います。

 ところで、賢明な皆さんは「新酒だ、古酒だって言っても、ふだん飲んでいる酒は、1月に買って飲んでも、9月に買って飲んでも味が変わらないぞ。」と思われるかもしれませんね。その疑問に答えることにしましょう。

 実際のところ、皆さんがおっしゃるように味に変化はほとんどないのです。何故でしょうか。

 メーカーには、そのメーカー独自の味があります。そしてその味は、出来うる限り一定でなければなりませんし、またそうしています。だからこそ皆さんも安心して自分の好みの銘柄を選ぶことが出来るのですよね。そこでメーカーは味の一定化をはかるために、新酒に古酒をブレンドして味の調整をして出荷しているのです。

 ですから、‘新酒’と特別に書いていない酒は、どの季節に買って飲んでも味に、そう大きな変化はないのです。

−1−



熟成の美徳

 先程、新酒・古酒の好き嫌いは好みの問題と書きましたが、酒質という観点から言えば、古酒に軍配が上がります。

 ここで坂口謹一郎氏の「日本の酒」から抜粋してみましょう。

『たとえ日本の酒でも、ある期間の貯蔵熟成の絶対に必要なことは、「新酒ばな」、「麹ばな」、「はなが若い」などといわれて、新酒のあらい香味がきらわれることでも知られる。その反対に「古酒香」や「ひね香」や、ビン詰の場合の「ビン香」という一種の酸化臭は、長すぎる貯蔵のせいである。

 適度に熟成した酒のよい性格は、味に「まるみ」があり、「調和し」、「アルコール味がなく」、そして「さばけがよい」というような言葉であらわされている。「すべり」や「のどごし」がよく、「味の切れ」がよく、「舌ざわりなめらか」というような、酒のヴェテランでなければわからないような「あかぬけ」のした性格の多くは、貯蔵熟成のたまものであると思えばまちがいがない。

 雑味に富んだにぎやかな酒も、一定期間の熟成を経ると、すっきりとして、水のような「なめらか」

な「のどごし」となることはよく経験されるところで、しろうとには、ややもすれば「うすい」というような感じにさえまちがえられるほどにもなる。

「色の白いは七難かくす」という古い諺がある。どんなに悪いうまれつきの酒でも、適当な熟成を経れば一応は飲めるようになるものである。このへんの性格がはっきりつかめるようになれば、はじめて日本の酒の卒業生ということができよう。』

 以上、坂口先生の言葉をもちまして、古酒・新酒の話を終わらせていただきます。

 なお、当店では古酒の逸品を取り揃えてございます。


───編集後記───

○年末、年始の慌ただしさと疲れのため、小生本来の怠け心がついあらわれて 今回の富田通信は、1ページ減ってしまいました。なにとぞ、お許しのほどを。

○ただいまの時刻は、元号が改まったばかりの平成元年1月8日午前2時6分。 大行天皇のご冥福を心からお祈り申し上げます。

−2−

E-mail:tomita@vega.ne.jp ->メール